優しい人になる方法

「人が優しくなれる瞬間。それは、自分を許した時と、誰かを許した時。」

心理カウンセリングの現場でも、多くの方が自分や他者を許せずに苦しんでいます。過去の失敗、自分に対する厳しい評価、そして誰かから受けた心の傷——それらは私たちの心に重くのしかかり、前に進む力を奪ってしまうことがあります。しかし、許しの瞬間に訪れる解放感は驚くほど心を軽やかにします。

カウンセリングに来られる人に共通しているな、と私が思うことの1つに、皆さん本当にすごく優しい心を持っている、ということ。

だけど、ご本人は自分で、その自分の優しさに気付いていない、ということかな、と思うのです。

気付いていないだけならまだしも、何故か自分が優しくないと思い込んでいたりもします。
逆に言えば、もっともっと優しくなりたい、という優しさに対するご本人の基準値の高さなのかもしれません。

成長意欲があること自体は、私は嫌いじゃない、むしろ大好きです。

が、しかし、自分の優しさを認められない、優しいと思えない、その根底には、本当は許したい誰かを許せない自分を感じているのか、もしくは、そんな自分自身を許せないでいるか…どちらかなのかもしれません。

自分を許すプロセス

過去の自分を受け入れる

カウンセリングルームでのAさん（40代女性）とのお話しをご紹介します。（内容はご本人に掲載許可をいただいています。）

Aさんは、こんなお話しをしてくださいました。

仕事で大きなミスをして、会社に迷惑をかけてしまったという経験でした。上司にはもう気にしなくていいって言われても、Aさんが自分の失敗を悔んで、どうしてあんな失敗をしてしまったのか、と自分を責める気持ちが止まらない、というお話しでした。

私は、Aさんが失敗をしてしまった時、どんな気持ちを感じていたのかを伺いました。

失敗した時って、誰だって焦ります。怖くもなるでしょうし、とても複雑な感情を感じるものです。自分を責める気持ちが強ければ強いほど、その時の感情はパニックに近い、とてもイヤなものになるかもしれません。

Aさんは、こんな風に答えてくれました。

誰だって失敗したくて失敗する、なんてことは殆ど無くて。だからこそ、失敗って予期せぬものになりますよね。そうすると、心は失敗をしたとたん、もしくは失敗をしたと気づいたとたん、ビーッビーッビーッビーッとアラームがけたたましくなり始めるような感覚になります。

すごく怖くなるし、すごく混乱する。何が起こったのかよくわからないけれど、自分のせいだ、自分が悪いんだ、って自分を責める気持ちが一瞬にして最高潮まで達する。

でもそんな中でも、何とか取り戻さなきゃ、って必死になれるって、本当にすごいことですよね。

そんなに怖くて混乱した気持ちで心が渦巻いて入れば、その場にしゃがみこんで動けなくなってしまったっておかしくないのに。

あの時のAさんの中には、怖くて混乱してパニックになっている自分も確かにいたんですけど、そんな状況の中でも、逃げずに自分にできるベストを尽くそうと頑張ったAさんもいたんですよね。

失敗してしまった、という事実は、Aさんにとって全く嬉しくなく、認めたくない事実だと感じるのかもしれません。

そして、失敗によって怖さや混乱、パニックを感じる自分自身をとても弱く感じるかもしれませんし、そんな弱い自分を嫌えば嫌う程、失敗する自分を許せない気持ちになってしまったりします。

だけど、大事なことは、弱いと感じる自分を抱えつつも、この状況下で自分のできることを必死にやろうと頑張っている自分自身も同時に存在している、ということ。

自分、という存在はひとりだけれど、自分の中には様々な要素があって、それぞれの要素がそれぞれ頑張っているんですよね。

もしかすると、AさんではないBさんは「私は怖くてパニックになったら座り込んで動けなくなってしまうんです。」っておっしゃるかもしれません。そう行動することで、自分を落ち着かせようとしているのかもしれませんよね。

問題は、どう行動するか、よりも、自分の取った行動を自分で受け止めてあげること。

人が正しいとか間違っているとか言おうとも、それはその人の基準で、その人の考え。

まずは自分を自分で受け止めようとしてみること。

「私は私なりに一生懸命だった。」

断言できなければ
「私は私なりに一生懸命だったのかもしれない…。」

まずはそう思ってみよう、と思うことで、小さな小さな自分でも気づかないくらいの変化が起こり始めているのです。

自分を許すことの意義

自分を許すとは、過去の自分を受け入れることです。

それは「間違いを正当化する」ことではありません。

「その時の自分もまた成長の途上にあった」と認めることなのです。

カウンセリングで、誰かに対して怒りを持ている時に、どんな経緯を辿ったとしても、最終的にはその人を許しましょう、という流れになっていきます。

それは、決して嫌なことをされたり言われたりと、傷つく経験を正当化するものではなく、怒りを抱えたままの自分本人が一番苦しい状態にいるので、その怒りを手放して自分を苦しい怒りから解放してあげることを目的としているのです。

もちろん、傷ついた過去の経験が傷ついたままで止まっている状態では相手を許すなんて到底できないし、したくないと思うものです。なので、まずは自分を癒す、傷を癒すことが先決です。

しかし、他人を許す、自分を怒りから解放してあげる、というプロセスを踏む過程で大切なのは、自分を許すことができるかどうか、ということがとても大きなキーポイントになります。

表面的に見ると、人は自分には甘く、他人に厳しい、というように見えたりするのですが、実際のところは不思議なことに、誰しもが自分に一番厳しい言葉をかけているし、自分に一番厳しくしているのです。

他人を許せない状態＝自分を怒りから解放してあげられない状態、なのですね。

言ってみれば、火山のマグマの中に自分を放り込んだまま、という状態を自分に課しているわけです。

あなたの大切な人が、そんなところにいつまでもいたら、早く出してあげたいとは思いませんか？

自分の過去の失敗。その出来事は変わらないけれど、その出来事への捉え方や、その時の自分に対する想いは今の自分だからこそできることなんですよね。

それは素晴らしい能力なのだと私は思うのです。

他者を許すことで得られる自由

他者を許すこともまた心を軽くします。

他者を許せない時、それは自分がイヤな想いをしたり、心を傷つけられた、と思う時ですよね。もしかすると、心だけじゃなく、物理的にも傷がついたかもしれません。

他者を許す、というのは、決して相手の横暴を甘んじて受け入れる、ということではありません。甘んじて受け入れる必要はないのです。時には戦うことも必要かもしれませんし、自分を守ること、逃げることも選択肢になるのかもしれません。

稀に、自分の傷が痛んでいる時に、相手を許そう、と思える人もいたりします。それはとても崇高なことだと思います。

だけどなかなかそんなことは現実的に難しかったりしますよね。

許せない、と思う時があって当然でしょうし、それだけ痛みを感じた、はずですので、怒りを感じて当然のこともあります。

それは決して悪いことではないと、私は思っています。

しかし、先ほども例えに出したように、自分を怒りの中にずっと置いておくことは、自分自身にとってとても苦しいことでもあります。自分を怒りの中から救い出してあげる、解き放ってあげる、ということも時には選択肢に入れられると、自分に対して優しくいられるんですね。

あなたの大切な人が火山のマグマの中に留まっていれば、出してあげたい、ときっと思うように、あなた自身もマグマの中から自分を解放してあげる、という視点があなたを救ってくれます。

許しの先にある未来

あなたがとてもとても優しい空気に包まれている姿を想像してみてください。

そこにはどんな表情のあなたがいるのでしょう。

とても優しく穏やかなあなたの姿が、あなたの未来に存在している姿が見えるでしょうか。

もし、今、自分や誰かを許せない気持ちに囚われているなら、まずはその気持ちを丁寧に受け止めてみませんか？

簡単じゃないかもしれません。
許しは時間のかかるプロセスです。

しかし、その先には必ず、心の軽やかさが待っています。
あなたの優しい姿があります。

1人でやろうと思わなくていいです。
上手くいかなくてイヤになってしまってもいいです。

少しでも、できるかどうかなんてわからなくても、優しい自分になりたい、と思う気持ちがあれば、ご連絡ください。

あなたの優しく穏やかな未来まで、一緒に進んでいきましょう。